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パン屋を開業する際に必要な準備丨資金・資格・手続き・経営のポイントを解説

焼きたてのパンの香ばしい香りに包まれた自分のお店を持つことは、多くの人が抱く憧れの夢です。しかし、パンをおいしく焼く技術があっても、それだけではパン屋の経営を成功させることはできません。

開業にはまとまった資金が必要になり、各種の手続きや資格の取得も求められます。さらに、競争が激しい業界であるため、綿密な事業計画と経営の知識を身につけることが大切です。

この記事では、パン屋を開業する際に必要な準備について、資金や資格、手続きから成功のポイントまで詳しく解説します。とくに見落としがちな開業後のゴミ処理についても触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。

パン屋開業のメリット

パン屋を開業することには、ほかの飲食店にはない魅力的なメリットがあります。小規模でも始めやすく、自分のこだわりをしっかりと形にできる点が大きな特徴です。

ここでは、パン屋を開業することで得られる代表的なメリットを2つ紹介します。

1人~少人数でも開業できる

パン屋は、小規模な経営からでも始めやすいビジネスモデルです。オーナー自身が製造と接客を担当すれば、人件費を大きく抑えることができます。

とくにテイクアウト専門店の場合は、イートインスペースを設ける必要がないため、10坪前後の小さな物件でも開業することができます。さらに、キッチンカーによる移動販売を選択すれば、固定費を最小限に抑えて営業を続けることができます。

初期投資を抑えたい方にとって、少人数で運営できるパン屋は理想的な開業スタイルといえます。

少ないメニューでも開業できる

パン屋は、取り扱うメニューを絞った専門店としても成功する可能性があります。近年では、食パンに特化した専門店やクロワッサンだけを扱う店舗などが人気を集めています。

メニューを限定することで、仕入れや在庫管理をシンプルにでき、厨房設備も最小限で済ませることができます。さらに、専門性を打ち出すことで他店との差別化を図ることができ、ブランディングの面でも優位に立てます。

品質にこだわった数種類のパンを提供するだけでも、十分にお客様の支持を得られる経営スタイルを実現できます。

パン屋を開業する際の大まかな流れ

パン屋の開業には、計画的な準備と複数のステップが必要です。ここでは、開業までの全体像を8つのステップに分けて解説します。

1:ビジネスプランを立てる

開業の第一歩として、明確なビジネスプランを立てることが大切です。どのようなパン屋を目指すのか、ターゲットとなる顧客層をどう設定するのか、価格帯や商品構成をどうするのかなど、基本的な方向性を明確にしていきます。

コンセプトを設計する際には「5W2H(誰に・何を・なぜ・どこで・いつ・どのように・いくらで)」のフレームワークを活用すると、具体的な計画を立てやすくなります。こうして作成したプランは、資金調達や物件選びの土台として重要な役割を果たします。

また、内容を事業計画書として文書化しておくことで、金融機関への融資申請にも活用できます。

2:開業資金を調達する

ビジネスプランが固まったら、開業に必要な資金を調達します。自己資金だけで賄えない場合は、日本政策金融公庫の創業融資制度や、地方自治体が実施する補助金・助成金の利用を検討します。

融資を受ける際には、しっかりとした事業計画書の提出が求められます。事業の将来性や返済計画を明確に示すことが、審査通過のポイントとなります。

一般的に、開業資金の30%程度を自己資金で用意することが推奨されています。

出典:日本政策金融公庫ウェブサイト「https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/sogyoyushi.html

3:物件を選ぶ

資金のめどが立ったら、店舗物件を探します。立地選定は集客に直結する重要な要素です。

ターゲット層が多く集まる場所を選ぶことはもちろん、競合店の有無や賃料とのバランスも考慮する必要があります。初期費用を抑えたい場合は、居抜き物件も選択肢のひとつです。

ただし、居抜き物件の場合は、前の店舗が廃業した理由を確認することが大切です。立地に問題がある可能性も考えられるため、慎重に見極めましょう。

4:内外装工事と設備調達を行う

物件が決まったら、内外装工事と厨房設備の調達に取りかかります。パン屋には、オーブンやミキサー、ホイロ(発酵器)など、専門的な製パン機器が必要です。

新品の業務用設備は300万~500万円程度と高額になるため、中古品やリースの活用も検討するとよいでしょう。工事着工前には、必ず保健所に図面を確認してもらうことをおすすめします。

基準を満たしていない場合、後から追加工事が必要になるリスクがあるためです。

5:行政手続きと資格取得を行う

営業を始めるには、食品衛生責任者の設置や各種営業許可の申請が必要です。これらは法的な義務であり、取得しないまま開業すると違法営業となります。

必要な手続きや資格については、次の章で詳しく解説します。早めに準備を始めることで、開業スケジュールに遅れが生じるのを防げます。

資格取得には一定の期間が必要なため、計画的に進めましょう。

6:仕入れルートを確保する

安定した営業には、材料の安定供給が欠かせません。小麦粉やバター、イーストなどの基本材料から、フィリングや装飾用の食材まで、信頼できる仕入れ先を確保します。

複数の業者と取引することで、品質とコストのバランスを保ちやすくなります。また、冷凍パン生地を活用することで、製造時間の短縮と運転資金の節約にもつながります。

仕入れルートの選定は、経営の効率化に直結する重要な要素です。

7:スタッフを採用し教育する

一人での運営が難しい場合は、スタッフの採用と教育が必要です。技術面だけでなく、接客の質も店舗の評価に大きく影響します。

小規模経営でも、オーナーの体力的な負担を軽減するためには、優秀な人材の確保が不可欠です。採用する際は、パン作りの経験だけでなく、お客様への対応力も重視しましょう。

しっかりとした教育体制を整えることで、店舗全体のサービス品質が向上します。

8:お店の宣伝を行う

開業前からの宣伝活動は、スムーズなスタートダッシュに欠かせません。SNS(InstagramやXなど)やWebサイトを活用して、開店情報やこだわりのポイントを発信しましょう。

地域へのチラシ配布や、開店記念のキャンペーンも効果的です。開業前から認知度を高めておくことで、オープン初日から多くのお客様に来店してもらえる可能性が高まります。

パン屋の開業にかかる費用

パン屋の開業には、初期費用と運転資金の両方を準備する必要があります。ここでは、それぞれの内訳と相場について詳しく解説します。

初期費用

パン屋の開業にかかる初期費用は、一般的に1,000万〜3,000万円程度です。店舗の規模や立地、設備の充実度によって大きく変動します。

主な内訳は以下のとおりです。

  • 物件取得費:敷金・礼金・保証金などを含めて50万〜300万円程度が目安です。立地や物件の条件によって大きく異なります。
  • 内外装工事費:店舗のデザインやこだわりによって300万〜1,000万円程度かかります。居抜き物件を活用すれば、この費用を大幅に抑えられる可能性があります。
  • 厨房設備費:パン屋の初期費用のなかで最も高額になる部分です。オーブン、ミキサー、ホイロ、冷蔵庫・冷凍庫などを揃えると、500万円程度が必要になります。
  • 広告宣伝費:オープン告知やチラシ、SNS広告などに50万円程度を見込んでおくと安心です。
  • その他:許認可費用や備品購入費なども考慮する必要があります。

10坪程度の小規模店舗であれば、数百万〜1,000万円程度で開業することも可能ですが、一般的な規模のパン屋では2,000万円以上を見込んでおくと安心です。

運転資金

開業後の運営には、月々100万〜300万円程度の運転資金が必要です。売上の規模や店舗の運営方法によって変動します。

主な内訳は以下のとおりです。

  • 材料費:売上の25〜40%程度が目安で、月20万〜50万円程度かかります。材料費が40%を超えると利益を残すのが難しくなるため、原価管理が重要です。
  • 人件費:売上の30〜35%程度で、従業員一人に対して月20万〜25万円程度が相場です。従業員を雇う場合は、この費用が大きな割合を占めます。
  • 家賃:売上の5〜10%程度に抑えるのが理想的で、月20万〜40万円程度が目安です。立地や物件の広さによって変わります。
  • 水道光熱費:パン屋の場合オーブンを多用するため電気代が高額になりがちで、月5万〜15万円程度かかることがあります。
  • 広告宣伝費:月4万〜12万円程度を見込んでおくと安心です。

開業後は、軌道に乗るまでに3〜6か月程度かかることが一般的です。その期間の運転資金(100万〜200万円程度)を確保しておくことが、安定した経営につながります。

パン屋の開業に必要な行政手続きと資格

パン屋を開業するには、いくつかの行政手続きと資格取得が必要です。ここでは、必須のものと取得が推奨されるものに分けて解説します。

食品衛生責任者

食品衛生責任者は、食品を扱う施設に1名以上の設置が義務付けられている資格です。施設の衛生管理や従業員への衛生教育を行う役割を担います。

各都道府県の食品衛生協会が開催する6時間程度の講習を受講することで取得できます。受講料は1万円程度です。

なお、調理師や栄養士、製菓衛生師などの資格を持っている場合は、講習が免除されます。講習会は定期的に開催されていますが、予約が必要な場合があるため、早めに申し込みましょう。

出典:一般社団法人東京都食品衛生協会「https://www.toshoku.or.jp/training/

菓子製造業許可

パンをテイクアウト販売する場合には、菓子製造業許可が必要です。店舗所在地を管轄する保健所に申請します。

2021年の食品衛生法改正により、この許可でイートインスペースを設けてパンと飲料を提供することも可能になりました。また、調理パン(サンドイッチなど)の製造も、この許可で対応できるようになっています。

申請には、店舗の図面や設備の配置図などの書類が必要です。工事完成予定日の10日前までには必要書類を提出し、完成後に保健所の検査を受けます。検査に合格して初めて、営業許可が交付されます。

出典:東京都福祉保健局・保健所「https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000319444.pdf

飲食店営業許可

イートインスペースで、パンと飲料以外の料理(スープ、サラダなど)を提供する場合は、飲食店営業許可が必要です。

この許可も保健所に申請しますが、菓子製造業許可よりも厳格な基準が適用されます。店舗の設計段階で、保健所に事前相談しておくことが重要です。

基準を満たしていない場合、後から大規模な改修が必要になる可能性があるためです。提供するメニューに応じて、必要な許可を取得しましょう。

出典:東京都保健医療局「https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyokatodokede/youshiki.html

開業届

個人事業主としてパン屋を開業する場合、税務署に開業届を提出する必要があります。事業開始から1か月以内の提出が義務付けられています。

罰則はありませんが、青色申告を利用するためには必須の手続きです。青色申告を選択すると、最大65万円の特別控除が受けられるほか、赤字の繰越や専従者給与の経費算入など、さまざまな節税メリットがあります。

開業届と同時に青色申告承認申請書も提出することをおすすめします。

【あるといいかも】パン製造技能士

パン製造技能士は、パン作りに関する唯一の国家資格です。開業には必須ではありませんが、取得することで技術力の証明になります。

資格には特級・1級・2級があり、取得には実務経験が必要です。2級は2年以上、1級は7年以上または2級合格後2年以上、特級は1級合格後5年以上の実務経験が求められます。

専門学校を卒業している場合は、卒業後すぐに2級の受験が可能です。資格を持っていることで、お客様への信頼性が高まり、集客にも有利に働く可能性があります。

パン屋の開業を成功させるためのポイント

パン屋を成功させるには、パン作りの技術だけでなく、経営戦略やマーケティングの知識も必要です。ここでは、開業を成功に導くための6つのポイントを解説します。

パン屋としてのコンセプトを明確にする

コンセプトは、店舗の方向性を決める最も重要な要素です。「誰に、何を、どのように提供するのか」を明確にすることで、他店との差別化が図れます。

高級食パン専門店、地元食材にこだわった店、健康志向のパン屋など、具体的なコンセプトを設定しましょう。5W2Hのフレームワークを活用すると、コンセプトを具体化しやすくなります。

コンセプトが曖昧だと、お客様に印象が残らず、リピーターの獲得が難しくなります。

集客できる立地を選ぶ

立地選定は、パン屋の成否を左右する重要な要素です。ターゲット層がアクセスしやすい場所を選ぶことが基本となります。

住宅街であれば主婦層や高齢者、オフィス街であれば会社員といったように、立地によって来店する顧客層が変わります。人通りの多い場所や駅近は集客に有利ですが、家賃が高くなる傾向があります。

パン屋は地域密着型のビジネスであるため、市場調査と競合分析を徹底することが大切です。ターゲット層と立地、家賃のバランスを考えて選びましょう。

他店にはない売りや魅力を持つ

競合が多い業界だからこそ、独自の強みを持つことが重要です。専門性を打ち出したり、話題性のある商品を開発したりすることで、お客様の記憶に残りやすくなります。

素材へのこだわり、製法の特徴、パッケージのデザインなど、さまざまな観点から差別化を図れます。SNS映えする見た目の商品は、拡散されやすく認知度向上につながります。

自分の店ならではの「売り」を見つけることが、長期的に成功を続けるために重要です。

地域の人々との信頼関係を築く

パン屋は日常的に利用される身近な店舗です。地域住民との信頼関係を築くことで、安定したリピーター客を獲得できます。

試食会の開催やクーポンの配布、丁寧な接客を通じて、お客様とのつながりを深めましょう。地域のイベントに参加したり、学校給食への納品を検討したりするのも効果的です。

地域に愛される店舗づくりが、長期的な経営の安定につながります。

マーケティングやITのノウハウを習得する

現代の集客には、デジタルマーケティングの知識が欠かせません。とくにInstagramは、パン屋と相性のよいSNSです。

美しい写真を定期的に投稿することで、新規顧客の獲得やブランディングに効果を発揮します。また、Googleマップの最適化(MEO対策)も重要です。

近隣で「パン屋」と検索した際に、自店が上位表示されるよう工夫しましょう。WebサイトやSNSでの情報発信は、広告費をかけずに集客できる有効な手段です。

経営の知識も身に付ける

パン作りの技術が優れていても、経営知識がなければ店舗を維持できません。原価計算や損益分岐点の把握、資金繰りの管理など、経営に関する基礎知識を身に付けることが重要です。

材料費が売上の40%を超えると赤字になりやすいといわれています。利益を確保するためには、適切な価格設定とコスト管理が不可欠です。

会計ソフトを活用したり、専門家に相談したりすることで、経営の負担を軽減できます。

開業前にチェック!パン屋のゴミ処分ルール

開業準備で見落とされがちなのが、事業系ゴミの処理についてです。パン屋から出るゴミは、家庭から出る一般ゴミとは扱いが異なります。

パン屋で出るゴミは「事業系ゴミ」に分類されます。事業系ゴミには「事業系一般廃棄物」と「産業廃棄物」の2種類があり、どちらも家庭ごみとして地域のゴミ置き場に出すことは原則できません。

事業系一般廃棄物には、生ごみ、紙くず、厨芥類などが該当します。パン屋では、売れ残ったパンやパン生地の切れ端、紙袋などが該当します。

産業廃棄物には、廃プラスチック類、廃油、金属くず、ガラスくずなどが含まれます。パン屋では、包装に使うビニール袋やラップ、調理用油などが該当します。

これらのゴミは、事業者の責任で適切に処理する必要があります。廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)により、事業者には廃棄物を適正に処理する義務が課されています。

毎回、自治体の処理施設に持ち込むのは手間とコストがかかります。一般的な対処方法は、行政の許可を受けた廃棄物処理業者に収集を依頼することです。

ただし、ゴミの種類によって必要な許可が異なる点に注意が必要です。事業系一般廃棄物は、市町村から「一般廃棄物収集運搬業許可」を受けた業者に委託します。

産業廃棄物は、都道府県から「産業廃棄物収集運搬業許可」を受けた業者に委託する必要があります。両方の許可を持つ業者であれば、一括して委託できるため便利です。

業者を選ぶ際は、必要な許可を保有しているか、サービス内容や料金体系が明確か、定期回収に対応しているかなどを確認しましょう。適切なゴミ処理は、衛生管理や法令遵守の観点から重要です。

出典:e-GOV法令検索「https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137

イーブライトに所属するゴミ回収ガールが、インスタグラムでゴミに関する情報を配信中!フォローやDMもお待ちしております!

まとめ

パン屋の開業には、資金計画や資格取得、適切な立地選定など、多くの準備が必要です。初期費用として1,000万〜3,000万円、運転資金として月100万〜300万円程度を見込んでおくとよいでしょう。

食品衛生責任者や菓子製造業許可などの必須資格を取得し、法令を遵守した営業を心がけることが大切です。また、見落としがちなゴミ処理についても、開業前にしっかりと対策を立てておく必要があります。

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